カナダのエネルギー・石油採掘関連事業者の投資家向け資料を見た時に、よく名前の挙がる「オイルサンド」について調べてみました。
オイルサンドは石油成分が付着した砂のことで、カナダのアルバータ州で採掘できます。オイルサンドは資源として利用しがたいため、アップグレーディングを通じて合成原油に加工されます。その後、主にパイプラインを通じてカナダやアメリカの工場地帯に送られ、各種製品に加工されて販売されています。
しかし、環境負荷が高いため、環境保護団体や先住民族、アメリカ民主党系の政治家の反対が強く、トルドー政権も将来の開発撤退を明言するなど、将来性はありそうにない感があります。
カナダの著名なエネルギー株(サンコアエナジー・カナディアンナチュラルリソーシズなど)は少なからずオイルサンド事業を有しています。
オイルサンドは石油成分を含む砂岩のこと
オイルサンドとは、石油成分を含む砂岩のことで、主にカナダの中西部、アルバータ州北部で産出されています。
オイルサンドから採取される原油は「超重質油」または「天然ビチューメン」とも呼ばれます。カナダ株のIRでは「Heavy Crude Oil」や「bitumen」と書かれていることが多いです。
オイルサンドとアメリカのシェールオイルとの違いは以下の通り。
★オイルサンドとシェールオイルの違い
- オイルサンド:石油成分を含む砂岩。タールサンドとも呼ばれる。重質
- シェールオイル:頁岩等(砂岩よりより粒度の細かい地層)の中に滞在する石油成分。厳密には「タイトオイル」と呼ばれる。軽質~中質であることが多い
オイルサンドは砂に原油成分がこびりついており、流動性がないため、アップグレーダー(改質)を行って流動性を加えます。
回収されたビチューメンは流動性がないため、そのままではパイプラインにて輸送できない。よって、生産現場に隣接する改質プラント(アップグレーダー)にて通常原油と同程度の品質の合成油に精製するか、ビチューメンに希釈剤(コンデンセートや合成油)を 30%程度混ぜた後にパイプライン輸送する
アップグレーダーはカナディアンナチュラルリソーシズ(CNQ)やサンコアエナジー(SU)など、上流過程の採掘事業者が行っています。一方、パイプライン輸送はエンブリッジ(ENB)やTCエナジー(TRP)などが担当します。パイプラインはカナダの都市部やアメリカの湾岸地帯に接続され、各種石油製品に加工されて販売されます。
なお、パイプラインの供給には限界があるため、鉄道を使って輸送される場合もあります。それを担当するのが、例えばカナディアン・ナショナル鉄道(CN)などです。
環境負荷の高さが問題
オイルサンドの資源利用は環境負荷の高さが問題になります。特に地球温暖化に大きな影響を与える可能性があります。
出典:https://www.jstage.jst.go.jp/article/japt/76/2/76_138/_pdf
また、オイルサンドは改質のために大量の水を利用します。利用された水はリサイクル処理されるものの、他産業への影響や、水質・土壌汚染も懸念されています。そのため、オイルサンド事業は環境保護団体や先住民族の反対運動を伴います。
例えば、TCエナジーの原油パイプライン建設計画(キーストーンXLプロジェクト)がとん挫している背景には、新たなパイプラインを建造することで、カナダでオイルサンドの採掘が増えて大気汚染物質が増える点と、それがアメリカに持ち込まれる点で懸念されています。
非営利環境保護団体「フレンズ・オブ・ジ・アース」の予測によると、「キーストーンXL」は、最も汚染を拡大させるとみられる化石燃料タールサンドオイルを、アメリカへ毎日83万バレル運ぶことになり、それは、560万台の新車を道路に走らせたときの排出量に相当するという。
現政権であるトルドー政権も、「オイルサンド事業は将来的には撤退する」と述べています。
トルドー加首相、オイルサンド事業 段階的廃止の意向 | AFP通信
ちなみに2020年のコロナウイルスの感染拡大時には、採掘事業者がコスト圧縮のために環境投資を減らしたとニュースになりました。
石油成分を含む砂岩から石油を生産するカナダのオイルサンド企業が、新型コロナウイルス感染の世界的大流行に対処してコストを削減するため、約20億カナダドル(約1600億円)規模の環境対策を棚上げにしている。
オイルサンドに関連するカナダ株
★オイルサンドを採掘する主なカナダ株
- サンコアエナジー(SU):2020年のガイダンスのうち、約6~7割の売り上げをオイルサンド事業に依存
- カナディアンナチュラルリソーシズ(CNQ):全採掘量の約36%(石油換算バレル、BOE)をオイルサンド事業とアップグレーディングに依存(20Q1)
- ハスキーエナジー(HSE.TO):2019年の採掘量のうち約半分がビチューメンと超重質油
- セノバスエナジー(CVE):2019年の売り上げの約半分がオイルサンド
- インペリアルオイル(IMO):2019年の純利益の6割がオイルサンドを含む採掘に依存
★オイルサンドを生成した合成原油を輸送する主なカナダ株
- エンブリッジ(ENB):パイプラインを通じて、カナダからアメリカに原油輸送を行う
- TCエナジー(TRP):パイプラインを通じて、カナダからアメリカに原油輸送を行う。ただし主力は天然ガス
カナダで石油資源を採掘する事業者の多くが、オイルサンドの採掘とアップグレーディング、売却から収益も得ています。銘柄選定の際には、オイルサンド採掘以外の事業を持っていたほうが、将来的にも長く活動できるように感じます。
とはいえ、将来的には化石燃料そのものが他の資源に置き換えられる可能性もありますので、オイルサンド事業の先細りは避けられないかもしれませんね。